アウトドア料理は豪快に作るに限る

4834000826ぐりとぐら
なかがわ りえこ
福音館書店 1967-01

by G-Tools

前々から欲しいと思っている物の一つに、ダッチオーブンがある。
およそどんな調理にも使え、何でも作れるうえに何でもおいしくできると聞けば、食いしん坊の私の食指が動かぬはずはない。ダッチオーブン愛好家達のたかが鍋への激しい愛着ぶりも、何かと思い込みの激しい私の嗜好にマッチして、日に日に思いは募るばかりである。まして、私の大好きな絵本の世界では、これぞダッチオーブンと思えるような大鍋料理が頻繁に登場し、その威力を見せつけるのである。こうなるともう、鍋が呼んでいるような気がしてならない。
 

さて、絵本に出てくるおいしそうなものとして多くの人が真っ先に思い出すのがぐりとぐらのカステラである。ふんわりとした黄金色の生地に香ばしい香りが漂ってくるようなきつね色の焼き目がついたカステラは、とにかくおいしそうでオトナもコドモも魅了される。また、この時調理に使われているのが、まさしく黒光りする使い込まれた深型スキレットで、私の長年のダッチオーブンへの憧れはここから始まっている。

ところでこんな見事なカステラを思いつきで作ってしまうぐりとぐらはタダモノではない。私が思うに、彼らは森で有名なアウトドア料理研究家なのではなかろうか。
何しろキノコ狩りの途中でデカイ卵を見つけたからって、卵の所有者のことなど全くお構いなしにいきなり食材扱いである。(私のネット友人の奥様なぞ、「卵を勝手に食べられちゃった おかあさんの気持ちも考えてあげなさいよ!」と本気で心配していた。)卵が持ち帰れぬと分かると、食材の現地調達こそアウトドア料理の醍醐味とばかりに、いそいそと家に帰って特大の鉄鍋を転がしてきて調理に取りかかるとは、用意が良すぎる。ここで、二人所帯のクセになぜそんなバカでかい鍋を常備しているのか?という疑問がわき、さらに妙に手際良くかまどを設えるぐらの様子や、カステラ製作に不可欠な工程である「卵の泡立て」をたった1本の小さな泡立て器でやり遂げるぐりの超絶テクニックを見るにつけ、もはやとても素人とは思えなくなる。
そして、「ぼくらの なまえは・・」といつものテーマソングを歌えば、二人を知るご近所さん達は「お、始まったな」と素早く察知してお相伴に預かろうと集まり始め、みんなで完成を楽しみに待つのだ。
プロらしく作品の完成時の演出も見事だ。ぐらが頃合いよく鍋の蓋を取ると、見事な出来映えのカステラが顔を出す。観客は思わず歓声を上げる。私は思わず弟子入りしたくなる。
やまのこぐちゃんもしげるを洗いに行く途中のおおかみも当たり前のように顔を揃え、皆で楽しくできあがったカステラを食べるシーンは、なんとも和やかなムードで見ているだけでハッピーになれる。もちろん、作った二人も満足げだ。


冒頭の話に戻るが、我が家は週末毎に野山に繰り出してキャンプするような筋金入りのアウトドア派というわけではないので、どことなくアウトドア玄人仕様の雰囲気漂うダッチオーブンを所有するのは宝の持ち腐れになるような気がして今まで購入に至らなかった。料理は大好きだが家事は不得手な私と夫にちゃんとメンテナンスできるのかという不安もあった。
だが、またとない絵になるきっかけを思いつき、ついに購入を決意した。
というのは、実は今日は(正確には昨日だが)私と夫の10回目の結婚記念日なのである。当初予定していた旅行計画は流れてしまったので、何か思い出になることはないかと二人で思案していたのだが、そこでこの鍋の購入というのは我ながらなかなか粋な思いつきだと思う。
10周年の記念に買ったまっさらな鉄鍋が、さらに10年、20年と年月を掛けて憧れのブラックポットに育つさまを想像するのは楽しい。夫婦の絆の象徴と思えば手入れも苦になるまい。
結婚20周年の記念パーティには、この鍋でぐりとぐらのカステラを焼こう。
 

【この絵本に関するお気に入りあれこれ】
・本棚の魔女の、魔法の本棚/本棚の魔女さんと相棒グッドラックの、読むだけでハッピーになれる「ぐりとぐら」ストーリー
・手当たり次第の本棚/とらさんの、気持ちは分かるが笑えるつぶやき
・絵本でほっとタイム♪/空さんの、正しい母親的反応に一票
・【号外】やまねこ新聞社/山猫編集長の作中の言葉のリズムについての楽しいお話