育児ストレスを笑い飛ばす

4097274384センシュちゃんとウオットちゃん
工藤 ノリコ
小学館 2001-11

by G-Tools
今年もまたクリスマスがやってくる。小さいお子さんのいらっしゃるご家庭ではそれぞれにサンタ稼業の準備に余念がないところだろう。我が家でも散々考えてようやくプレゼントの準備ができたと思ったら、その翌日、子供部屋で「サンタさんへ サンタさんはいないとおもっているひともいますが わたしはしんじています。プレゼントは○○をください。」という娘の直筆メモ(手紙?)を発見してしまった…。これで○○に書いてあるのがとてつもない高級オモチャや「現金」だったなら笑って無視するところだが、逆に拍子抜けするほどささやかな願いだったので、急遽計画変更をして彼女の願いを叶えてやることにした。来年の手帳に「事前リサーチは慎重に。」と赤字で書き込んだことは言うまでもない。
 

さて、せっかくなのでオトナノトモでもなにかクリスマスにちなんだ絵本を…と思っていたが、たまたま手元にあったお気に入りの絵本のなかに、クリスマスエピソードがあったのを思い出したので取り上げてみる。

絵本「センシュちゃんとウォットちゃん」はセンシュちゃんと共に暮らす仲間達の季節感あふれる日常生活を短いストーリー仕立てにしたマンガ風の絵本で、どの話もとびきり可愛くて面白い。
その中の1話、「センシュちゃんとウォットちゃんのクリスマス」はこんなお話だ。
クリスマスイブの日、朝からクリスマスの飾り付けやごちそう作りの準備に忙しそうな友だちを尻目に、センシュちゃんはのんびりクリスマスの絵本なんか読んでいる。その絵本でサンタが煙突からやってくる絵を見たセンシュちゃんは「先に煙突の中で待ち伏せしていればみんなの分のプレゼントも独り占めできる!」と思いつき、嬉しくてニヤニヤしてしまう。さっそくその夜みんなが寝静まった頃、ひとり密かに屋根によじ登り、煙突に入り込んでわくわくしながらサンタさんを待つセンシュちゃん。ところが今年に限ってサンタさんはドアから入ってきて、出迎えたウォットちゃん達にプレゼントを手渡すのだった(笑)。なぜかその場にいないセンシュちゃんのために「あのー…、いまちょっといないんですけど、センシュちゃんのぶんもください」とサンタさんにお願いする優しいウォットちゃん達。ところがサンタさんは「こんなよふけに おうちにいないわるいこには、あげられないなぁ…。」とあっさり立ち去ってしまうのだ。その言葉を煙突の中で聞いたセンシュちゃんはあせって出ようとするが、狭い煙突穴に体がぴったり挟まって身動きが出来ない!! さて大ピンチに陥ったセンシュちゃんは無事にプレゼントをゲットできるのか…?


工藤ノリコさんの描く幼児が好きだ。どこまでも自分中心に世界が回っていると信じて疑わない、良く言えば天真爛漫、はっきり言えばワガママで欲張りで厚かましワンパク坊主たち。中でもこの絵本の主人公センシュちゃんのパワフルな悪童ぶりは群を抜いていて、まさにキングオブ自己中なガキンチョなのである。こんなコドモが実際に身近にいたら心底うんざりさせられるに違いないのだが、不思議と絵本の中のセンシュちゃんはひたすら可愛くておかしくて、全然憎めないのだ。

考えてみると、センシュちゃんのようにコドモらしいコドモは今時珍しいのかも知れない。少なくとも私の周囲でみかける幼児は大抵もっとしつけが行き届いていて、センシュちゃんのように目先の私利私欲に駆られて後先考えずに行動するアホなコドモはあまり見かけない。目の前にお菓子や玩具があっても、コドモらしくワーッと飛びついたりせず、妙に行儀良く親の顔色を窺ったりとか、言わずとも周囲のオトナの期待を察するよい子がけっこう多いような気がする。オトナにとっては育児の手間が省けてまことに都合がよい傾向なのだろうが、私にとっては育児の醍醐味に欠けるというか、なにか間違っているような気がしないでもない。だいたい、コドモがそんなに出来た人間では、オトナの立つ瀬がないではないか…。

何を隠そう我が家の上の子がまさにオトナコドモなよい子ちゃんタイプで、他人の思惑を気にするあまり自分の本当の気持ちを素直に言えないようなところがある。幼い頃から手がかからず親としてはそれは楽をさせて貰っているのだが、どうも彼女は常に自分の「よいこレベル」を保とうと余計なストレスをため込む傾向があるので、もっと気楽に好き勝手に生きろよ!と願わずにはいられない。

一方、下の子はまさしくセンシュちゃんのキャラクターそのもののワガママ坊主で、それまでの育児経験が全く役に立たないのが悔しいやら情けないやら…。さらに反抗期に入って上の子にはほとんど必要のなかった怒鳴りつけやおしりペンペンの毎日にうんざりしていた頃、ふと出会った「センシュちゃん」の絵本に思いがけず癒されたのである。無邪気な小悪魔そのもののセンシュちゃんの行動に爆笑するうちに、そういえばコドモって本来こんなもんだ、だからこそ面白いんだ!と思えてきて、より客観的に我が子の行動を観察できるようになった。だいたい、センシュちゃんの極端なワガママぶりに比べたら、息子の駄々コネなんて可愛いものだ。そう思って敵に向かうとこれがまた、楽で優雅なよい子の育児にはない刺激と笑いに満ちているのである。今では、息子が彼らしい強引な理屈でむちゃくちゃな自己主張を始めても、家族の誰かが「でた!センシュちゃん攻撃だ!」とツッコミをいれると即座に笑いのネタになる。眉間にシワを寄せて「このガキャ〜っ」とイライラするより、精神衛生上にも美容上にもたいへんよろしく、みなさんにオススメしたい。

とういうわけで「センシュちゃんとウォットちゃん」は、ワンパク坊主を授かって育児ストレスが爆発しそうな全国のお母さんへ、私からクリスマスプレゼントとして贈りたい絵本である。

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