ある間取り図フェチの夢

世界あちこちゆかいな家めぐり世界あちこちゆかいな家めぐり
小松 義夫 西山 晶

福音館書店 2004-10
おすすめ平均

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日本の家―北から南まで日本の家―北から南まで
織田 憲嗣

福音館書店 1989-07
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住宅の間取り図を眺めるのが趣味と言う人は意外と多いらしいが、実は私もその一人。
二次元の図面からその場所での生活をあれこれ想像するのが面白い。
その趣味が自分の実生活に関わることはめったにないわけだが、この春転居する自宅をリフォームすることになり、ここ数週間それは楽しくも忙しい日々を送っている。
 
 
私の幼い頃からの夢は、家の中に図書館がある家に住むことだった。
実際今住んでいる家の一部屋はほとんど書籍と雑誌で埋まっているが、情けないことにただ溜め込んでいるだけに等しく魔窟と化している(^^;)。
大量の書籍を管理するにはかなりのマメさと労力が必要と知った現在は、「家に図書館」の夢は「家の至近に図書館」という立地条件の希望へと変わった。
そして、いっそ情報や資料の収集管理はできるだけ外注し、自宅には「閲覧ルーム」があればよいという発想につながり、家族全員で使う書斎を作ろうという新しい夢が出来た。
その夢を今回のリフォームで実現すべく頭をひねっているわけである。
 
新居では3LDKの一部屋を書斎に当ててしまうので、二人の子供に用意できる個室は必然的に無くなる。
それでもなんとかそれぞれにプライベートスペースを用意してやりたいと苦心した挙げ句、かなりややこしいリフォームを依頼することになってしまった。
いくつかの業者に相談し具体的な施工プランを考えるなか、ある担当者に
「今流行りの『頭のよい子が育つ家』みたいですね〜。」
と言われ、なんじゃそりゃ?と思った。
聞けば、半年ほど前に出たそういう本が巷で話題になっているという。
本屋で立ち読みしてみると、「○○中に合格した○○さんの家」といった調子で次々と間取りが紹介されていて、間取り良ければ全てヨシ!的な論調に苦笑してしまった。
しかし、「有名私立中合格者の自宅を調査したら子供部屋ではなく家族の共有スペースで勉強していた」という説に基づいて書かれたというこの本はベストセラーとなり、
今やそのコンセプトを売りにしたセミナーやらコンサルティング、果てはマンションそのものまで発売されているそうな。
ということは・・・我が家の子供たちの輝かしい将来が楽しみである(爆)。
 
 

さて、間取り図フェチにおすすめの絵本といえば、この2冊は外せない。
「世界あちこちゆかいな家めぐり」は、世界各地のユニークな居住様式を写真と図解で紹介する楽しい知識絵本だ。
例えば、チュニジア・マトマタ地方の家は、地下に穴を掘って作る。アリの巣よろしく用途別に作られた部屋が地中に並んでいるのが面白い。
部屋が足りなくなったらもちろん、さらに穴を掘って部屋を増築ならぬ増掘(?)するのである。何だか原始的で楽しそうだ。
(そういえば、アリの家の断面図が出てくるたむらしげる氏の「ありとすいか」や、そのモグラバージョンが見られる工藤ノリ子さんの「オラウーちゃん」も私のお気に入りの絵本だ。
蟻も土竜もいわゆる穴居式住居なので間取りもへったくれもないが、ドールハウスを覗くような楽しさについ隅々までチェックしてしまう。)
さらに圧巻なのが、中国福建省の土楼。4階建ての巨大な円形の建物で、内部は細かく仕切られていてフロアごとに用途が分けられている。
この巨大な円形長屋のような建物一棟に300人が暮らし、それだけで一つの村のようにコミュニティが形成されているのが分かる。
日本でも、今や一棟に300人どころか300世帯が暮らす高層マンションが珍しくないが、そこにあるのは300世帯の「個」の集合体でしかない。
300人がひとつの家族のように共同体として生活している土楼の住人とは、生活意識からして天と地ほども違うはずで、なかなか興味深い。
 
一方、「日本の家 北から南まで」はそのタイトル通り、我が日本各地の戸建て住居を紹介する絵本である。
古いものは秋田の両中門造の木造農家から、ホームオートメーションの施された現代的な3階建て住宅まで、
それぞれ詳細な立体パース図を用いて各部屋の配置や用途が説明されている。残念ながら絶版らしいので図書館や古書店で探してみて欲しい。
この絵本を読むと、やはり昔ながらの日本の家はそれぞれの地方の気候や地形に調和した余裕のある作りとなっていて、
ごく自然に人と環境の共存共栄が図られていたことが分かる。
それに比べ、現代建築の家は細かく仕切られた壁が多く風通しが悪そうで、無駄が無いぶんアソビも無く、窮屈な印象は否めない。
 
人々の生活が豊かになればなるほど、家の中は狭くなる。そして部屋の狭さに比例して人間の器も小さくなってきたような・・そんなことを考えた。
長らく、人間はせっせと頭を使っていかに日常生活を楽にするか=人の手仕事・足仕事を機械にやらせるかを考え、
人々の暮らしはどんどん便利に快適になった。そして気が付けばヒトはどんどんものぐさになり不器用になり、
頭でっかちで生活力のない生き物になり下がりつつあるという皮肉な現実。
 
これから都会のマンションで生活する私が心豊かに暮らすためには、むしろ豊かで便利な生活を追求しない覚悟がいるだろう。
第一に家の中にモノを増やさないこと、そして、手仕事を厭わずモノに頼らない生活を心がけ・・自信はないが頑張ろう(^^;)。