かおつきぱんの不敵な笑い

buta.jpgぶたぶたくんのおかいもの
土方 久功
福音館書店 1985-02


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この絵本がなかったら「オトナノトモ」は誕生しなかったかも知れない。それぐらい思い入れが強く、これから先もずっと、間違いなく私の生涯の絵本ベスト3に入るであろう一冊をご紹介しよう。
 

イキナリだが、主人公のぶたぶたくんは、ところ構わず四六時中、大声小声で「ぶたぶた ぶたぶた」とつぶやいているという、端から見たらかなり危ない人(豚)である。もうこれだけで私を夢中にさせるインパクトとしては充分なぐらいだが、この本のスゴイところは他の全ての登場人物もまた主人公に負けず劣らずハジケた個性を持っていて、読者をぐいぐいとシュールなぶたぶたくんワールドに引き込んでいくところにある。

なかでも特に強烈なキャラクターの持ち主は、パン屋のおじさんとやおやのおねえさんだ。
パン屋のおじさんは自らが南国のトーテムポールのような風貌で、薄ら笑いを浮かべて客に流し目を送る、世にも怪しい「かおつきぱん」を売っている。しかもこのオヤジ、木訥そうな顔をしてさりげなく客が買う品物の等級を勝手に決めてしまうかなり強気な商売人なのだ。ちなみに無邪気なぶたぶたくんは「上等」をもらってホクホクだが、いったい何をもってしてこのパンが上等なのか、非常に気になるところだ。
やおやのおねえさんに至っては、現れるなり八百屋なのになぜかスーツ姿で、こちらが不安になるほどの思い切った脱力ポーズで客を出迎える。しかしこの接客の基本をくつがえすアヤシイ佇まいにひるんだ客は、この後いきなり彼女の口から炸裂する怒濤の営業トークに度肝を抜かれることになるのだ。
まったく油断も隙もないスリリングな商店揃いの町である。
ちなみに超早口のやおやのおねえさんの次には、超スローモーな話術で客を自分のペースに引き込むお菓子屋のおばあさんが出てくる。せっかくなのでそれぞれのキャラになりきって読めばめりはりのある読み聞かせができるだけでなく、楽しい発声練習にもなり一石二鳥だ。

てなわけで絵も文もツッコミどころ満載のアヤシイ絵本なのだが、それでいて描かれている世界には、言葉の全く分からない国で妙に懐かしい響きの音楽に出会うような、不思議な心地よさが漂っている。
作者の土方氏は1900年生まれ。当然もう他界していらっしゃるのだが、若い頃は南国で彫刻を彫りつつ現地住民と生活を共にしていたと言うから、独特のエキゾチックな作風は年季の入った本場仕込みということだろうか。彼の作品には、自然の恵みに身をゆだねる未開の南国生活から身につけた、ヒトの力が及ばないものへの畏怖と親しみが込められているような気がしてならない。

文も個性的なら絵もどちらかというとカワイイというよりかなり不気味で、人によって好き嫌いが激しく別れる作風だが、ハマる人はどっぷりハマる。できれば、自分のブログもそうありたい(万人向けにモデレートした内容ではなく、初めて訪れた瞬間に好き嫌いが直感できるような場でありたい)と願っている私は、この絵本が好きだと言う人に出会うと妙に嬉しいのである。
出会ったときから数十年間を経ても、私にとってこの作品世界の濃さを超える絵本は見あたらない。無人島に1冊持って行くなら迷わずこの絵本を選ぶつもりだ。
(2005.10.16一部改訂)
 


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