あげどんべんとうはプリン付き

こんとあき
林 明子
福音館書店 1989-06


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きつねのぬいぐるみ「こん」と妹分の人間の子「あき」のロードムービー風ストーリー。
 

リサとガスパール」もそうだが、あきらかに人間でないものがごく普通に人間の生活にとけ込んで行動しているという設定は幼児絵本ならではで、アタマの柔らかいコドモは別に不思議にも思わないようだが、オトナにはむしろこの微妙な違和感が面白かったりする。
しかもこの絵本では、あきが林明子氏お得意の表情豊かな人物描写で描かれた生き生きとした人間の子であるのに対し、こんは服こそ着ているものの擬人化されていないぬいぐるみそのもので、縫い目もくっきり、目もいかにもガラス玉で妙に無機質と、あえて対照的に描かれているような気がする。

ところでこのこん、ぬいぐるみのクセにやたら頼もしい。
「ぼくについてきて」なんて言ってどんどん列車に乗っちゃうし、余裕で弁当の買い出しにも行く。どんな時も冷静沈着で、たとえしっぽがドアに挟まれたって眉一つ動かさない。
さらに、突然の野犬の登場にもひるまず前に出てあきを守ろうとする。この男らしく毅然とした姿は友達と言うよりむしろ兄や父親を連想させる。(同じ話が五味太郎氏と小野明氏の対談「絵本をよみつづけてみる」で語られていた。こちらもたいへん面白いのでオススメ)
そう思って読み進んでいくと、海辺の夕暮れのシーンでは「負うた子に負われ」た状態のこんが、それでも力を振り絞ってあきを励まそうとする姿に涙を誘われる。

ホロっとさせたところで頼もしいお兄ちゃん(パパ?)のお茶目なところを見せ、場を和ませて流れよくエンディングへ、というのは良くできたホームドラマのようで、ストーリーテラーとしての林明子氏の才能が光る名作である。