少年よワイルドな妄想を抱け

Where the Wild Things Are
Maurice Sendak
Harpercollins Childrens Books


by G-Tools
かいじゅうたちのいるところ
モーリス・センダック じんぐう てるお
冨山房 1975-01


by G-Tools
 
我が家では数年前からヒトの形をした一匹のケモノを育てている。
これが機嫌のいいときはすこぶるカワイイ奴で扱いも楽なのだが
時としてまったくコントロールの効かない危険な猛獣に成り下がる。
もちろん人間の言葉など通じないし、吠えるわ壊すわ暴れるわで

手が付けられない。慣れないウチはついつられてこっちまで興奮してしまい
気が付くと平和な家庭が野生の王国になってしまうのが常であった。
が、最近はさすがにこのパターンに疲れて私も学習した。ヤツの中の野生が
目覚めた気配を感じたら、潔くあきらめて周辺の安全管理だけに目を配り、
あとはタタリ神を前にしたヒイ様のごとく、荒ぶる魂よ静まりたまえ・・
とひたすら嵐が過ぎ去るのを祈るのである。

センダックの「かいじゅうたちのいるところ」の主人公マックスは、
我が家の3歳児の猛獣モード時のキャラクターそのものである。
冒頭のいたずら中の悪魔のような表情。思いつく限りの悪行を尽くしても、
まだ足りないといった風情で、しまいには母親の文句に逆ギレして晩飯抜きの
刑を食らうのだ。でも逞しいマックス少年は泣き寝入りなんかしない。
それならいっそのこと、うるさい母親なんかいないところでもっともっと
暴れてやれ・・と、いつもの楽しい妄想ワールドにトリップするのである。
そこでは何でもマックスの思い通り。恐ろしげな風貌の大きな怪物達もみな、
支配者マックスの意のままに動く。散々暴れて遊んで大騒ぎした後は、
理不尽にもいきなり晩飯抜きの刑を命じて恨みをはらすことも忘れない。
ようやく満足したところでふと我に返るマックス。支配者は楽しいが、
愛されない孤独には耐えられない。潔く全てを捨てて帰路に就いた彼を
待っていたのは、いつもの部屋と、いつもの母のあたたかい手料理。

さてこの絵本で一番スゴイのは誰か。そりゃもちろんマックスでも怪物でも
なく、姿無きマックスの母親だと私は思う。
荒ぶる魂の持ち主マックスの気持ちに沿うコスチュームまで用意して
好きなようにさせる度量の深さだけでも尊敬するが、手が付けられなくなった
腕白坊主が流れよく妄想ワールドに飛べるように気持ちを煽って一人にさせ、
トリップ中に思い切り発散させて、頃合いを見計らって手料理の香りで
覚醒させるなんざ、並の母親に出来るワザではない。
「ああ、いい汗かいた」とばかりにすっかり満足して帰ってきたマックスの
表情を見よ。ぺろりと夕飯の一皿を平らげて一晩ぐっすり眠ったら、何事も
なかったように清々しい笑顔で「おはよう、ママ!」なんて言いそうだ。
素晴らしい。私も是非ともそのワザを会得したい。