第三のがらがらどんが見つからない不幸

三びきのやぎのがらがらどん―アスビョルンセンとモーの北欧民話
マーシャ・ブラウン
福音館書店 1965-07


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今どき「リーダー」といえば、目に付くのはどんなキャラクターの人だろうか。
根回し上手で口の立つエリート官僚や、年功序列にあぐらをかき、実権は何も持たない形だけの「長」や、成功体験を振りかざして自分の非常識さを省みないワンマン社長・・などといったイメージが浮かんでしまうのだが、多くの場合彼らは疎ましがられこそすれ、決して憧れの対象とはならない。

ミスチルの歌じゃないけれど、今の若者の多くが延々と続く自分探しの旅から抜け出せなくなっている原因の一つに、目標となる憧れのリーダーの不在を挙げてもハズレではないだろう。

三びきのやぎのがらがらどん」の三匹は、「なまえはどれもがらがらどん」なのだが、彼らの関係の詳細は語られていない。私には、三匹が単に同グループに属していると表していることで、それが普遍的な「共同体」のありかたとしての一つのモデルを表現しているように思える。そこには、守るべき弱い仲間と、それ以外の仲間と、強くて頼りがいのあるリーダーがいる。この構成は単純で安定したプリミティブな人間社会を暗喩しているように思えるのだ。

ここに見るからに恐ろしいトロルという敵が登場するが、小さくて弱い仲間もその他の仲間も、このトロルとの接触を全く恐れていない。自分より上の仲間への揺るぎない信頼をもとに、平然と躊躇せずに先へ進んでいく。
そこへ待ってましたとばかりに登場したおおきいやぎのがらがらどんは、当然のように自ら進んで敵と対決し、打倒し、悠々と仲間たちに合流する。
その姿は惚れ惚れとするほど堂々としていて、信頼を揺るがす不安定さなど微塵も感じさせない。滅茶苦茶カッコイイのである。しかもそれでいて、自らの立場を驕ることなく仲間と肩を並べて無邪気に草を食んでいる。
なんと幸せに安定した共同体だろうと思う。

しかしやはり、この無邪気な平和は動物の世界だからこそなのだろう。
人間は力を持つといつの間にか権力という化け物に取り憑かれる。トロルよりも恐ろしいこの魔物は、一度取り憑いたら容易には離れない。
かくして、絶対的な力を崇められ、人々から尊敬され頼られるカッコイイ存在だったはずのリーダーは仲間から恐れられつつも蔑まれる怪物となっていく。

おおきいやぎのがらがらどんのように、持てる力をあるがままに行使して自分と周りを幸せにする、それだけで充分というシンプルで無欲な心を持つリーダーはいないものか。
いや、第三のがらがらどんはきっとあなたの身近にもいるはずなのだが、自己主張の激しい権力主義者達の陰になったまま、彼に出会えた幸運な一握りの人々だけをひっそりと幸せにしているのかもしれない。


なんだか堅い話になってしまった。それでは今日はこのあたりで、
チョキン、パチン、ストン。
はなしは おしまい。
 
 

【この絵本に関するお気に入りあれこれ】
・OKI*IKU Note/よんさんの絵本と出会うタイミングの妙にうなる話
・H.I.D./hideさんの爆笑がらがらどん漫才
・書店員/高倉美恵さんのがらがらどんで思い知る世の中の不条理
・手当たり次第の本棚/とらさんの悪役トロルのキャラクターについてのためになる話