上司に恵まれない貴方へ捧げる一冊

009975200XJohn Patrick Norman McHennessy (RED FOX PICTURE BOOKS)
John Burningham
Red Fox 1990-08-16

by G-Tools
john.jpgいつもちこくのおとこのこ―ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー
谷川 俊太郎
あかね書房 1988-09

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尼崎のJR福知山線脱線事故から3週間が過ぎた。
今回の不幸な大事故の原因は色々と取り沙汰されているが、私のような門外漢から見ても、顧客と従業員の安全を無視したJR西日本の無神経な企業体質に大きな要因があったことは間違いないように思える。

特にミスをした運転士に課されるという「日勤教育」について、その内情がマスコミに暴露され、批判が高まっている。そこで強制される指導の具体的な内容は、起こしてしまったミスの
再発防止というより、運転士個人への罪悪感のすり込みとしか思えないような、後ろ向きな懲罰であったようだ。
このような本人に屈辱的な罰を与えることで反省を促すという封建的な社員教育が、平然と現在も日本の大企業で行われているということに驚く。
こんなやり方で、人が育つとは思えない。むしろ精神的苦痛で本人の向上意欲を奪い、正常な価値判断を見失わせるいじめの部類だと私は思う。

事故後の対応でさらに馬鹿さ加減を晒しているJR西日本の経営陣を見る限り、これほどの大きな代償を払ってもなお、抜本的な企業体質の変革へ向かう姿勢が感じられず、残された遺族の方々や負傷者の方々は怒りや悔しさはいかばかりかと案じられる。
犠牲者の方々のご冥福を心からお祈りする。


同じ反省文を何度も書かされるという罰で思い出したのがこの絵本。
向学心に燃える真面目な少年ジョンは、世も明け切らぬうちから学校へ向かうのだが、いつも途中で思いも寄らない災難にあい遅刻してしまう。
妙に巨大で怪物じみた風貌の彼の教師は、授業に遅れた理由をありのままに説明するジョンを全く信じようとせず、すぐさま(むしろ嬉しそうに)遅刻の罰としてジョンに自分を否定する反省文を300回書けと命じる。
言われたとおりに居残りで「もううそはつきません」と300回書いたジョンは再び急いで授業に向かうのだが、またしても信じがたい不慮の事故や天災に巻き込まれてしまう。
為すすべもなく遅刻を繰り返しては事情を説明するジョンに対し、教師は不運な生徒をいたわるどころか怒髪天をつく勢いで怒りちらし、その度に壁に向かって大声で反省文を400回唱えろだの、部屋にとじこめて反省文を500回書けだのと無意味な懲罰を宣告し、挙げ句は体罰を予告して従順な生徒を脅迫するのである。
ところが、ようやくジョンが遅刻をせずに教室に辿り着くと・・。
あとは読んでのお楽しみ!さすがにこの絵本はネタをバラしてはつまらない。

教師のイジメにもめげず淡々と懲罰をこなし、ひたすら目的に向かって道を急ぐジョン少年は、見かけに寄らず不屈の精神の持ち主のようだ。
それだけに、絵本の見返し一面に印刷された拙い反省文の羅列が泣かせる。

突飛な発想とどことなく殺伐とした画風がマッチしたJ・バーニンガムらしい絵本で、邦訳版も谷川俊太郎氏の訳による淡々とした文章が味わい深い一冊だ。