天職は歩いてこない

4834000834ぐるんぱのようちえん
西内 ミナミ、堀内 誠一
福音館書店 1966-12

by G-Tools

日経ネットによると、全国のニート人口が推計85万人に達するそうだ。しかも、そのうち約半数の42万人が「将来の就職を希望していない」とか。
彼らは、何を生き甲斐に毎日を過ごしているのだろう。素朴に不思議である。

ニートの人々へのインタビューなどを見ると、仕事をしなくても生きていけるから、しないというのはごく自然な選択だという声も聞くが、それって生きていると言えるのだろうか?
誰かのために自分が存在する。その存在証明となるのが仕事だと私は思う。
生まれてきただけで喜んでくれた親も、いつまでもいるわけじゃない。10代、20代の若い頃ならば、生活に困らず、気を紛らわすものに囲まれていれば気が付かないでいられるかも知れないが、いずれ自立を余儀なくされて自分を見つめざるを得なくなったとき、誰にも必要とされない人生に生きる喜びを見いだすのは困難なことだろう。

この絵本の主人公ぐるんぱは、まさしく誰にも必要とされないやっかいものだった。それでも仲間思いの象たちは彼の就職活動に協力し、身なりを整えて送り出してやる。そこでぐるんぱは張り切って片っ端から仕事につくのだが、(応募先がサイズ基準に厳しいメーカーばかりだったせいか)自分らしさを発揮するあまり、どこへ行ってもはみ出し者ですぐにクビになってしまう。
居場所を失ったぐるんぱが辿り着いた先は、思いがけず、何度も否定された「ありのままの自分」こそが求められる職場だった。しかも、これまでの失敗に終わったキャリアで得た物もしっかり生かせる夢のような職場だったのである。これこそ、人生において無駄なことは何も無いという分かりやすいメッセージではないだろうか。
かくしてぐるんぱは天職を得て、人々を幸せにし、自分も幸せに暮らすのであった。

 
私も決して裕福ではないが食べ物着る物や進路選択に自分の自由意志を反映できる時代・環境に育ったので、ニート族の「気に入らない物を選ぶぐらいなら何もいらない、このままでいい」というある種傲慢な考え方に共感できなくもない。だが、せっかく若さという最強の切り札を持っているのに、実際にやってもみないうちから情報だけで判断して天職という一生の宝を得るチャンスに手を出さないのは実にもったいないと思う。

余談だが、私の弟は大学を出た後、新卒で旅行代理店→製パン業→情報処理業→造園業と、ぐるんぱも真っ青の異業種転職を繰り返している。その度に出戻り息子の先行きに不安になった母親の愚痴を聞かされるのには閉口するが、まあ本人の納得がいくまで色々やってみればいいと私は思う。ただし三十過ぎてんだから天職探し以前にとりあえず家を出て自活しろと言いたい。
どう見てもコドモなのに有無を言わさず世間の荒波に放り出されたぐるんぱを見習え、ぐるんぱを。
 
 
【この絵本に関するお気に入りあれこれ】
・ポポタム!さんの【絵本ドリル】ぐるんぱはいつか、里帰りするでしょうか?
・【号外】やまねこ新聞社/山猫編集長さんのぐるんぱのほっぺの魅力を語る嬉しい話
・☆ブログ版☆「東京ホームレス」/村上知奈美さんの天職を語れる幸せに気づかされる重みのある感想