祝!カミサマの仲間入り

大好きな絵本作家さんがまた一人、お亡くなりになった。
長新太さん、享年77歳。
悲しみと喪失感でパニックになるかと思いきや、意外と冷静な自分がいる。
もしかしたら、後からガツーンとくるタイプの出来事なのかも知れない。
ここぞと言うときに泣かない自分を意外な気持ちで傍観していたら、ココロの友(と勝手に私が思っている)の絵本おじさんから追悼企画(?)への参加を依頼された。
これは感情や感性にやたらに包帯を巻くなよ、という天啓のような気がして、想いが膿んでしまわぬうちに、ちゃんと長新太さんとその作品への自分の気持ちを見つめ直してみることにした。
 

何よりも自分自身が不思議だったのが、「大好きな人が亡くなったのにどうしてこんなにすんなりとそれを受け入れる気持ちになれるのか?」ということだ。
もちろん、はっきりと明快な理由なんぞ見つかるわけもないのだが、多分正解に近いのは、私にとって長新太という人はもともと生死を超越した存在だったのだろうということだ。

誰にも真似のできない作品を作り出す畏怖すべき才能に出会ったとき、その瞬間からその人は私の心の中で永遠の命を持ってしまう。優れた芸術家とはそういう意味で不死身の人々なのだと私は思っている。
特に長さんの作品世界は「個性的」なんていう言葉が陳腐に思えるほどぶっ飛んでいたので、私には彼が普通に日常生活を送る様子が想像できなくて、何となく仙人のようなイメージを抱いていた。もし今後、彼を知る人から「実は彼は石や魚や野菜と話ができた」という話が出ても、さもありなんと信じてしまいそうだ。お会いしたこともなかったので訃報を聞いて初めて実在する人であることを思い知らされた気さえする。

彼の作品を見るたびに私が感じるのは、アニミズムに対する憧れと畏怖に似た気持ちだ。何しろ彼の描く世界では動物はおろか雲も太陽も山も岩もイスも積み木もキャベツも、ありとあらゆるものが「トーゼンなのよ」とばかりにアタリマエに個性豊かな自己主張を繰り広げる。さらに唐突に謎の怪人や物の怪が現れ、容赦なく襲いかかってくる。まったくもって油断のならないスリルに満ちた世界ながら驚くほど緊迫感が無く、気が付くと微妙にユルい結末に不思議と心が癒されている。
この独創的な世界へ、彼は絵本という誰にとってもハードルの低い手法で私たちを誘ってくれた。常人が思いつかないような色遣いもストーリー展開も、彼の手にかかると驚くほどすんなりと私たち一般読者の感性にも受け入れられるものになるのだった。

さて、せっかくなので数多ある長新太作品の中から私のお気に入りを一冊。
名作揃いなので、この期に及んで一冊を選ぶのは大変だった。アマノジャクの私は、他の人がまず挙げないであろう地味な佳作を選んでみた。

4876925674あかいはなとしろいはな―えほんだいすき
長 新太
教育画劇 1996-07

by G-Tools
対象年齢の下限を感じない作品が多い中、この『あかいはなとしろいはな』の深読みだけは「オトナじゃなきゃ、ムリね」と私は断言してしまうのだ。R指定と言ってもいい。なにしろ、つげ義春作品を彷彿とさせるような静謐なエロティシズムがこの作品には感じられる。内容を紹介するにはあまりにも短く凝縮されたストーリーなので、興味のある方は書店か図書館へどうぞ。

 
ひょっとすると、彼の飛び抜けた想像力を思い切り開放するには、現世は少しばかり窮屈だったかもしれない。
この度、あの世でめでたく絵本のカミサマとして八百万の神の仲間入りを果たし、土方久功氏や岡本太郎氏などの芸術バクハツ系先輩カミサマ達と共に、「千と千尋」の油屋のような天のお湯屋で現世の垢を落としつつ、私たちの想像を超える大胆なカミサマ談義をして楽しく過ごしていらっしゃるのかも知れない・・・
そんなことを考えながら、夜空を見上げてみるのだった。
 

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