「てぃんかあ・べる」さんのこと

私のお気に入りだった絵本と玩具のお店が来月閉店することになった。
愛知県豊橋市にあるそのお店「てぃんかあ・べる」は、25年前、絵本の魅力にとりつかれたご主人が脱サラしてご夫婦で始めたお店だ。開店当時に地元の新聞に掲載された記事を読ませていただいたが、絵本専門書店自体が珍しい時代に、絵本と子どもたちへの愛にあふれたこだわりの店作りに奮闘していた様子が伺えて、胸が熱くなった。
 

私と「てぃんかあ・べる」との出会いは、4年前のクリスマスにさかのぼる。
当時はらぺこあおむしが大好きだった3歳の娘とその友達の為に、何か良いクリスマスプレゼントはないかとネットで探していると、ある玩具店のホームページでうっとりするような商品群に出会った。そこには、はらぺこあおむしだけでなく、「11ぴきのねこ」のとらねこたいしょうや、こぐまちゃんとしろくまちゃんも、「かいじゅうたちのいるところ」のマックスとかいじゅうまで並んでいて、一目見て私の心は躍った。
早速問い合わせて、あおむしのぬいぐるみとトランプを3セット注文したのだが、あいにくぬいぐるみは2体しか在庫がなく、2セット+トランプ1個になってしまった。結局セットはお友達にあげて、娘には他のモノをプレゼントしてことなきを得た。ぬいぐるみはとても好評だった。

その後、年明けに第2子が生まれ、新生児の世話に追われてクリスマスのことなどすっかり忘れていた私に、1通のメールが届いた。あおむしぬいぐるみが1体だけ入荷したというてぃんかあべるからの知らせだった。驚いた。たった1度しか購入実績のないネット顧客の為に、しかもこんな小さな商品1個の為に、わざわざ入荷の連絡をくれるとは。
私は東京在住なので、およそどんな絵本も玩具もわざわざ豊橋まで行かずとも手にはいるはずだが、ここ東京で上客でもない私にこのような細やかな心遣いを示してくれるお店には出会えた試しがない。結局この時は他に買うものが無く注文はしなかったのだが、改めてお店のホームページを隅々まで見て、商品に対する愛情や顧客を大切にする店主の思いに小さな感動を覚え、いよいよ本格的にてぃんかあべるのファンになったのだった。

それからというもの、子ども達の誕生日はもちろん、クリスマスやら初節句やら、ことあるごとにてぃんかあべるでまとめ買いするのが私の楽しみとなった。時には店のご主人と近年の玩具事情についてメールや電話で語り合ったり、購入した玩具に我が子が夢中になる様子を写真付きで紹介したり(実はお店のホームページのどこかに、我が娘の写真がエピソード付きで載せてあったりする)、てぃんかあべるは私にとって単なる書店・玩具店以上の存在になった。気がつくと子ども部屋のおもちゃ棚は私の趣味の品であふれかえってしまい、ここ1年ほどは自宅分の購入を自粛していたところ、冒頭の閉店の知らせが届いたのである。

急な話に驚くと同時に、どうしても閉店前に一度はお店を訪れなければという思いに駆られ、なんとか家族で行きたいとカレンダーを睨んだが、既に今月は予定がいっぱいなので、急遽仕事のない平日に日帰り単身で豊橋行きを敢行した。
数年ものネット上のおつきあいを経て初めて実際に訪れたその店は、こぢんまりとしながらも中身の充実した居心地の良い空間であった。店のご主人も奥様も、旧知の友達に対するようなあたたかい心遣いと共に私を迎えてくれ、心から「来て良かった、来られて良かった」と思った。
何しろ保育園のお迎え時間までに帰らなければならないので、奥様が淹れてくださったお茶をいただく時間ももどかしく、お店を何周もして、ご主人秘蔵の非売品の絵本の数々を見せて頂いたり、気になっていた玩具に触って動きを確かめたり。思いがけず、おそらく東京でも中々手に入らないであろうレアな品を入手することもできた。短いながらも宝物のように充実した幸せなひとときであった。

ご主人は、お店を閉めた後も、いずれまた何か絵本か玩具に関する活動を始めたいとおっしゃっていた。いつかまたお会いして、心ゆくまで絵本談義ができる日がきっと来ると信じている。


☆「てぃんかあ・べる」はJR豊橋駅東口から徒歩5分。7月まで営業中。
お近くの方は、ぜひお立ち寄りください。また、お近くでない方も、きっと有形無形の掘り出し物との出会いがありますので行く価値ありです。
ホームページは、こちら。