目標に向かって突き進まない人生

basuni.gifバスにのって
荒井 良二
偕成社 1992-05

by G-Tools
夏休みが終わり、親子共にせわしない日常が戻ってきた。
今や小学校は2期制となっているせいか、張り切って新学期に臨むといったムードはなく、むしろ秋は学校行事や子どもの稽古事の発表会シーズンという気がする。
実りの秋という言葉に象徴されるように、それまでの努力の成果として教養・芸術系なら発表会、スポーツなら大会等が各地で催される。才能あるコドモを持った親達は思わず期待に胸ふくらませ、我が子にハッパをかけたくなる気持ちも分からなくはない。でも当の本人以上にヒートアップして「ガンバレ、ガンバレ」と檄を飛ばしている親たちを見るたびに何だかやるせなくなってしまうのは、私だけだろうか。
 

確かに負けるよりは勝つ方がいい。高い評価を受けることができれば、子ども自身の自信にもつながるだろう。それでも私は、最初に目標ありきで結果だけを目指すような指導や親の姿勢には疑問を感じる。例えそれが本人の意志であっても、こんな人生の初期段階から「勝ち組」「負け組」を意識するような生き方をしていたら途中で息切れしてしまうのではないかと心配になる。
ほっておいてもいずれ受験・就職・仕事と、イヤでも目標に向かって必死で努力しなければならない日はやってくる。ただでさえ生き急いでいる今時のコドモ達から、無邪気にただ日々の生を浪費できる貴重なコドモ時代を奪わないで欲しいと思う。

この絵本は、そんな激しくノーテンキな親である私の肩にそっと手を置いてくれる。

少年がひとり、バス停でバスを待っている。
バスはなかなか来ない。ラジオをつけると、妙に単調な異国のリズムが流れ出す。
巨大なトラックが、馬が、自転車が通り過ぎ、やがて夜が更け、さらにたくさんの人や物がが少年の前を通りすぎていく。
夜が明けても、まだバスは来ない。ラジオからは相変わらずあの心地よいリズムが続いている。
やがて砂煙をまきあげて、巨大なバスがついにやってきた。
ところが待ちに待ったバスは満員で、少年は乗れない。
あっさりと乗車を諦める少年に見送られ、バスは去ってゆく。
悔しがるでも泣くでもなく、淡々と状況を受け入れる少年の表情は穏やかだ。
やがて少年は歩き出す。大きな荷物を軽々と背負って、とおくへむかって。


我が子にはこの絵本の主人公のように、結果よりも過程を楽しむ余裕を身につけてほしいと思う。
人生は、精一杯努力しても報われるとは限らない。不確定な未来の為に失ってしまうには、「あそびがしごと」の日々はあまりにも短く貴重だ。私自身、将来の栄光や安泰(なんてものはこの世にはないが)を目指して浮かない顔で努力を重ねるよりも、日々のささやかな幸せを見逃さずに喜べるおだやかな生き方を選んできた。これを根性無しの享楽主義と言ってしまえばそれまでだが、明日死んでも後悔しないつもりで毎日を精一杯楽しんで過ごしたいと思っている。

 
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