労働者のプライド

4834005097はたらきもののじょせつしゃけいてぃー
ばーじにあ・りー・ばーとん いしい ももこ
福音館書店 1978-03

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8年ぶりの大雪で都心でも10cm近い積雪があった昨日、我が家のコドモ達は東京ではめったに出番のないスキーウェアを着込み、降りしきる雪の中で楽しそうに跳ね回っていた。私自身も東京育ちなので大雪はめったにない冬のお楽しみで、学校の休み時間ともなれば服が濡れるのも構わず校庭に飛び出して雪遊びに興じたことを思い出す。ところがある時、豪雪地帯として有名な雪国育ちの友人に何気なく雪の思い出を聞いてみたところ、急に真顔になって「雪は…寒くて、辛くて、重くて…思い出すだけで暗い気持ちになる…」という思いがけない返事が返ってきて、都会育ちの脳天気さを思い知ったのであった。

 

さて、大雪と言えば思い出すのがこの絵本。
ケイティーは、ジェオポリスの役場の道路管理部で働く55馬力の大型トラクター。町中の道路整備を一手に引き受ける道路管理部では色んな種類の働く車が活躍しているが、特に力のいる大仕事となると、パワフルなケイティーにお任せだ。
冬になると道路管理部は除雪作業に忙しくなる。けれどあまりにもハイパワーなケイティーは、ちょっとやそっとの積雪では出番がない。ある日、朝から雪が降り続いてとんでもない大雪になり、町の機能がすっかり停止してしまう。ここで、待ってましたとばかりに大活躍するのがケイティーなのだ。
一面の銀世界。雪に埋もれて真っ白になってしまった町を、ただ一人悠々と突き進んでいくケイティー。なんと頼もしく美しい姿であろうか。文字通りケイティーの前に道はなく、ケイティーの進む道がそのまま町の人々の活路となる。ケイティーの通った後には、息を吹き返した町の活気溢れる様子が鮮やかに描かれていて、その対比がとても面白い。

私がこの絵本から一番強く感じるテーマは、労働の歓びである。

けいてぃーは、はたらくのが すきでした。
むずかしい ちからのいる しごとが、
あれば あるほど、けいてぃーは
よろこびました。

自分の持っている能力を世のため人のために発揮できるのは幸せなことである。まして、自分にしかできないことの価値を人々に認められ、自らもそれによって確かな自己肯定感を得られるとしたら、それこそ天職に巡り会えた僥倖というものだろう。

けいてぃーは もう、すこし くたびれていました。
けれども しごとを とちゅうで やめたりなんか、
けっしてしません……
やめるものですか。

町の人々の要請を受け、雪の中をひたすら突き進むケイティーの勇姿には、まさに天職を得た者の自信と誇りが満ちている。


自然の脅威にも果敢に立ち向かい営まれる人々の生活、そのドラマティックな展開を、絶妙なレイアウトの絵と文で見事に表現したバートンは、やはり巨匠と呼ぶにふさわしい絵本作家だ。作品の序盤でケイティーや道路管理部のプロフィールをページの隅々まで使って詳細に描いたかと思えば、町が雪に埋もれた様子、それがケイティーによって次第に掘り起こされ窮地を救われ活気を取り戻していく様子を、真っ白な余白を効果的に使いダイナミックに表現している。それはサービス精神に溢れた良質なエンターテイメント映画のように、観る者の好奇心をぞんぶんに満たしてくれる。むしろ映画と違って紙媒体だからこそ、自分のペースで何度でも前後のページを行きつ戻りつして、バートンの描く豊かな作品世界を2倍も3倍も堪能できるのだ。
改めて、絵本の鑑賞がいかに贅沢な娯楽であるかを教えてくれる名作である。