地道な食育、過激な食育

tabemono.jpegたべもののたび
かこ さとし

童心社 1976-10
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
スーパーサイズ・ミー 通常版
スーパーサイズ・ミー 通常版モーガン・スパーロック ドキュメンタリー映画

おすすめ平均
stars毎食30日間マックだけを食べ続けたドキュメンタリー

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
主に自分の手抜きが目的で月1〜2回ファーストフードを利用している。夏休みともなるとさすがにネタも気力も尽きて、先日も子連れの外出帰り、街灯に吸い寄せられる虫のように黄色いMのマークに吸い寄せられた。
子ども達はオモチャ付きのセットを選びニコニコだったが、お腹が空いていたはずなのに結局ほとんど食べず、オモチャをいじるばかり。食べないの?と聞けば「おいしくない。気持ち悪くなるから残していい?」とのたまう。どうせ後で腹が減ったと騒ぐくせに…と思いつつ、ジャンクフードと知りつつ食べさせている後ろめたさから「残さずたべろ」とも言えず、かといって食べ物を捨てるのもイヤで、結局自分が食べ残しを完食して気持ち悪くなった。
 
その夜、今回の彼らのワガママは栄養学的にはむしろ望ましい自然な選択では?と夫に指摘され、安易に利用して食育を矛盾させている自分を反省した(^^;)。そして、せっかくなのでこれを機に食物の選択と身体への影響について親子でもっと突っ込んだ話をしようということになり、翌日、映画「スーパーサイズ・ミー」を家族みんなで観たのだった。
 

さて、子供たちの感想は「誰だって毎日あればっかりたくさん食べてたら病気になるよね」と、案外冷静。
「そうだよね、モノには限度ってもんがあるよね。」
「でもこれは映画だからわざとやってるんでしょ。」
仰るとおり。コドモの視線はけっこうスルドイ。もちろん映画の演出として極端な設定のもと行われた実験であることは監督自身も認めていることだが、真っ当な限度感覚を麻痺させる罠がそこにあり、それこそが子供たちの身にせまる危険なのだという警告も彼は伝えていた。作中では子供をターゲットにする(=年少時にブランドロイヤルティを刷り込む)マーケティング手法の狡猾さが主張され、常に企業論理が優先される米国の教育現場や社会背景の危うさも暴露されていた。高校時代、米国滞在中に過食症になり1年で5kg太って帰った自分はまんまとアメリカ資本主義に乗せられたアホな若者だったというわけだ。
また、作中で紹介されるアメリカの学校給食の実態や、実際に激太りして体調に異常を来していくモーガンの姿は子供にはかなりショッキングだったらしく、何やらおびえた表情で画面を見つめていた(笑)。とにかくこの作品はツッコミどころ満載で見終わった後も話がはずみ、普段子供が意識しない「売る側の論理」について親子で話し合うきっかけにもなった。食育教材としては相当ラジカルな内容だが、話が食育だけに留まらない、興味深い作品であった。
 

ちなみに我が家では普段特にストイックな食生活をしているわけでもなく、どちらかというと「安全性」よりも「おいしく食べる」ことを優先している。ただ食育といえば、幼少時から繰り返し読み聞かせている一冊の絵本が思い浮かぶ。その絵本、かこさとし作の「たべもののたび」は、その名の通り、口から入った食べ物が体内を巡って役目を果たし体外へ排出されるまでの旅路を描いた、加古氏ならではの分かりやすく楽しい科学絵本である。
口から旅をスタートしたたべものたちはまず、喉のトンネルとその先の細い道(食道)を抜け、胃袋公園にたどり着く。そこでもみくちゃにされたあと小腸公園の長いジェットコースターに乗せられ、ここで持ってきた荷物(栄養分)は全て振り落とされ没収されてしまう。すっかりへとへとになった食べ物達はさらに大腸公園で残った水分さえ搾り取られ、スカスカになって身を寄せ合いヨロヨロと出口へと向かうのだ。こう書くとたのしい旅というより悪徳ぼったくりツアーのようだが、それが食物の運命なのだから諦めてもらうしかない(笑)。
 

構造も原理も知らずに文明の利器を使いたおす現代人よろしく、私たち人間は人体という超ハイテクシステムの内側を何ら意識することなく毎日使っている。お腹が空けば動けなくなる、食べれば元気になり身体も成長する、動いて出すモノを出せばまたお腹が減る…それぐらいのことは幼児でも本能的に理解しているが、実際に口からいれたものがどのように体内で作用するのかということには、子供ならず大人でも驚くほど無頓着な人が多い。のど元過ぎれば我関せずとばかりに、味にはうるさいグルメでもノドから先に関してはブラックボックスのままで平然としていたりするのだ。かく言う私も、「たべもののたび」をウンザリするほど繰り返し読んだおかげで食物の摂取から排泄までの基本はバッチリ理解しているが、この絵本で説明を省かれている他の臓器の働きについてはかなりあいまいな知識しか持っていない(恥)。
しかし、高性能な機械ほど使い方を誤れば危険が大きいのは私たちの身体も同じ。まして人体システムは順応性が高く、相当無茶な使い方をしても本当に破綻するまで平然と稼働してしまうのが怖い。
せっかく授かった唯一無二の高性能マシンを長く愛用したいなら、やはり基本的な構造ぐらいは理解して負荷のかけすぎや連続稼働は避けるべきだろう。もちろん、定期的な点検とメンテナンスも忘れずに。
 
ところでその後の我が家の子供達だが、街でMの看板を見かけても「ハッ○ーセットだ!」と騒がなくなった。それどころかコドモ同士でヒソヒソと「あ、マク○ナルドがある」「太っちゃうね」「からだにわるいんだよね」「オモチャもないしね」(なぜかいつも希望のオモチャは売り切れなのだ)「お母さんが行こうって言ったらどうしよう」「他のところにしようって言おうね」…などと相談をしていて、その単純さに苦笑した。
つまり、子供はそれだけストレートに映像メディアの影響を受けるのだろう。
巷に溢れるCMを遮断して生活することはできないけれど、安易に影響されない強い頭と心を育てるには、食育の基本と同じく、好き嫌いなくいろんな情報をまんべんなく採り入れるのが良さそうだ。