罪深きイノセントガール

あらしのよるに ちいさな絵童話 りとるあらしのよるに ちいさな絵童話 りとる
きむらゆういち / あべ 弘士

講談社 1994-10

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マルラゲットとオオカミマルラゲットとオオカミ
マリイ コルモン Marie Colmont Gerda Muller

パロル舎 2004-02

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学生時代の女友達でアイドル並みに可愛い娘がいた。見た目の可愛さもさることながら、甘え上手であぶなっかしい雰囲気に「ほっとけない!」と寄ってくる男が後を絶たなかった。寄ってこられた彼女(仮にY美としておこう)の方はごく素直に男達の好意を受けるのでタクシー代やら食事代なぞ払ったことがないという。一方私の男友達にも何人か彼女に好意を寄せる者がいて、なんとかY美をおとそうと日々奮闘していたのだった。
さてこういうサンプルが身近にいると、下手な恋愛論を読むよりもよほど分かりやすく男女関係の法則を学べる。面白いことに、男性の多くはあまりにもスキがありすぎる女の子を前にすると征服欲よりも庇護欲が勝るらしく、「それ絶対チャンスでしょ!!」って時にも手が出せないものらしい。
ある日、飲み会で遅くなったY美を私の男友達Nが家まで送っていった。千鳥足の彼女を抱きかかえて部屋に入り、ソファに座らせるともう寝息を立てている。無防備そのものの彼女を前に、Nはほとんど理性を失いかけたが…ふと正気に返ったY美に「あれ、Nくん送ってくれたの?ごめんねぇ〜!でもありがとう…あ、今、お茶入れるね♪」とニッコリと微笑まれ、「ああ、こんな良い娘を一瞬でも襲おうと思った俺のバカバカバカ!!」と深く反省したという。
後日「本当にNくんていい人よね〜♪」と無邪気に語るY美に対し「あんたって残酷…」と思わずつぶやいた私は、彼女が本当に送り狼になるタイプの男には決して甘えないしたたかさな一面を持っていることを知っている(笑)
 
相変わらず枕が長くて申し訳ない。今回の絵本はリクエストにお答えレビュー第2弾「あらしのよるに」である。
リクエストを寄せてくださったぴぐもんさん、ありがとう&お待たせしました!
 
巷でこれぞ感動作と名高い作品ほどとかく辛口評になりがちなオトナノトモであるが、今回もご多分に漏れず少数派の書評となるので、作品ファンの方には予めお断りしておく(^^;)。
シリーズ全7巻を一読して、最初の設定こそなかなか面白いと思ったが、読み進むうちに前述のY美とNのことを思い出し、「ガブ悲惨だなオイ!」という思いばかりが強烈に印象に残った。禁じられた関係ならではの泥沼もオトナ界の話ならば人生色々ということでそれなりに深い味わいにもなり得るのだろうが、いかんせん明るく平和な童話的世界が背景にあるため、一言で言うと読めば読むほど気持ちが悪い。どれぐらい気持ち悪いかというと渡辺惇一の不倫モノを無理矢理ハッピーエンドにしてコドモ向けの絵本に仕立ててしまったような気持ち悪さである。本来ドロドロにこじれてしかるべきオトナの世界を中途半端に明るく都合良く描いてしまったことでツッコミどころ満載となっているのだ。
 
ではなぜこれが世間ではこんなにウケているのかというと、ぴぐもんさんの「冬のソナタじゃあるまいし・・・」というスルドイ指摘がまんまその答になっている。運命のいたずら的設定に始まってハラハラドキドキのアクシデントの連続、秘密、葛藤、数々の障害や悪運を乗り越えて辿り着く奇跡のハッピーエンド…大衆受けするエンターテイメントの要素がたっぷり盛り込まれている上、長文読解が苦手な人にもとっつきやすい台詞中心のシンプルな文体&エピソード単位でまとめつつも次回作への興味をそそる連ドラ方式。これが月9ドラマなら高視聴率間違いなしだ(笑)。さすが「童話作家ほどオイシイ商売はナイ」と豪語するミリオンセラー職人の仕事は隙がない!
 
恋は障害があるほど燃え上がるなんて話もあるが、自分の感情あるいは欲望のままに突っ走れば、自分だけでなく相手も周囲も不幸に陥れてしまう可能性があり、何らかのカタチで結果の責任をとる羽目にもなる。そういった人間の業のダークサイドに敢えて焦点を当てれば、破滅へと突っ走る退廃の美学が成り立ちもするのであろうが、残念ながらこの一連の作品にそんな深みは感じられないし、あったとしても読み手のお子様お母様方に歓迎されるとは思えない(笑)。結局タブーにつきものの道義的責任を無視して強引に感動作に仕立て上げているという印象は否めないのだが、現代人はよほど感動に飢えていると見え、案外そんなことに目くじら立てる人は少ない。
よほどストイックなベジタリアンでも無い限り、食物連鎖上では間違いなく狼に近いはずの人間が何の疑問もなく弱者である山羊に自分を重ねて狼の優しさに涙している不思議。本能に従っているだけで一方的に悪者にされた狼たちは人間たちのご都合主義にへそで茶を沸かすだろう。案の定、大絶賛のレビューが並ぶ大手書評サイトとは対照的に、狼好きが集う某所では辛口評ばかりがズラリ。無論、私えほん「うるふ」がどっちに共感したかは言うまでもない。
 
築く関係が恋愛であれ友情であれ、タブーを越えた関係にはそれなりの覚悟が必要である。その覚悟とはすなわち「ハッピーエンドで終わらない覚悟」だ。「いずれ来る別れを受け入れる覚悟」と言ってもいい。全ての動物が仲良く暮らすのが常識の絵本の世界で、ことさらそのタブー性を話題の中心に取り上げるならば、たとえ童話であっても、いや、コドモが読み手になりうる童話であるからこそ、自然界の法則を安易にねじまげて語ることに私はとても抵抗を感じる。なぜなら、そんなことが出来てしまえるのは弱肉強食という大自然の掟を無視して食物連鎖の頂点にのし上がっている我々人間だけだからだ。何かをやれる能力があるからと言って、それをやる資格があるとは限らない。ヒトはあくまでも生物界の一構成員であって、神ではないのだ。
 
 
最後に、数ある捕食関係のタブーに挑んだ絵本の中には私も気に入っている作品がいくつかあるので紹介しておこう。
 
「きつねのおきゃくさま」あまんきみこ/二俣英五郎 私的オススメ度★★★★★ 小2の娘の教科書音読の宿題を聞いて不覚にも泣いた。まさにえほんうるふの目にも涙(笑)
 
「おまえうまそうだな」宮西達也 私的オススメ度★★★★ ベタですが、タイトルが最高。同じシリーズ物でもこうも違うか。
 
「マルラゲットとオオカミ」コルモン/ミューラー 私的オススメ度★★★★★★★ 知名度は低いが超オススメ! 動物好きの子供にこそこういう絵本を読ませたい。絵も大好き。
 
ちなみにいずれの作品も上記の「覚悟」をきっちり全うしており、「あらしのよるに」シリーズの展開に納得できない我が同志には特にオススメである。ぜひ一読あれ。