愉しきバーコード・ワンダーランド

まいごになったおにんぎょう
A.アーディゾーニ文 / E.アーディゾーニ絵 / 石井 桃子訳
岩波書店 (1983.11)
 
スーパーマーケットが好きだ。
しかしそこは私にとって、大好きだからこそ出来るだけ近寄らないように自制している禁断の園でもある。何しろ、必要な物だけを買って店を出ると言うことが出来ない。特に、こだわりのパンや総菜・珍しい輸入食材やら製菓材料などが並ぶいわゆる高級スーパーの類に弱くて、一歩足を踏み入れたが最後なかなか出られない。(余談だが、この手のスーパーでは買った物を店の人がレジ横で袋詰めしてくれるのがちょっと嬉しい♪)大抵は買い物リストという武器を手にしているものの、敵はあの手この手でこちらの好奇心と五感とを刺激してくるので、あっさり陥落してしまうのが常なのだ。かつて私は何とかこれを突破しようと考えて、タイムアタック方式で買い物をしてみたことがある。やり方はごく単純で、ストップウォッチ片手に店内に足を踏み入れた瞬間から買い物リストをクリアして出てくるまでのタイムを計るだけ。結果はムダ遣いゼロ&時間短縮で一石二鳥という素晴らしいものであったが、タイムを競う相手がいない空しさと他の買い物客の訝しげな視線がネックとなり残念ながらあれから一度も決行していない(^^;)
 そんな大好きなスーパーマーケットも、子供を産んでからはとんと足が遠のいた。今思えば、彼らが自力で身動きできない乳飲み子の時分には、多少荷物にはなるが自分にくくりつけてしまえばスーパーでカートを押しての買い物なんざ楽勝だった。問題は敵が二足歩行の上達と共に口も達者になる2歳あたりからだ。子連れの買い物の何が辛いって、「買って買って!」攻撃からの防御と本能のままに行動するコドモらに人間社会のルールを教えるのに疲れ果て、気が付けば悪魔に魂を売り渡しストレス解消と称して自らリストにないオトナ仕様スイーツを買ってしまったりすることだ。帰宅後にふとレシートを見ては「他より50円安いものを買うために行った先で500円も無駄遣いしてどうする…orz」とやるせなくなり、疲労感倍増である。しかしそんなことが度重なるうちに私も学習し、だんだんと日常的な買い物の多くを生協や各種ネットショップのオンライン注文で済ませるようになった。今では野菜はここ、肉はあっちで魚はこっち、乾物や加工品はここ…といった使い分けもバッチリだ。 これがなかなか快適で、労せずしておいしくて良質な食材が手頃な価格で手に入る上、「買って!」攻撃はもちろん自分自身の衝動買いもほぼ防げるので、送料を払っても家計的にはむしろ安上がりだったりする。結果的に街中のスーパーや商店での買い物は本当に急場しのぎでの単品買いか、買い物そのものを楽しむレジャーとしてのショッピングにほぼ二分されるようになり、やりくり上手で優雅な生活を送るお利口マダムになったような錯覚すら覚える今日この頃である。
 
さて、そんな子連れ買い物の悲喜こもごもをご存じの方はもちろん、単なるお買い物好きの人にも是非是非おすすめなのが今日の絵本、「ピヨピヨスーパーマーケット」である。
にわとりさんちの奥さんはぴよぴよと元気な子供たち5匹を引き連れてスーパーへお買い物。母一人で5人の幼児連れ…しょっぱなからかなり無謀である(^^;) 案の定、ひよこたちはスキを見て母親からこっそりカートを奪い、お菓子売り場へ直行! 5人それぞれにお気に入りのお菓子をじゃんじゃんカートに入れて、ちゃっかりレジに並ぶ。大浪費であわやにわとり家の家計あやうし!というところで母親が追いついて無事山盛りお菓子はキャンセルされ、買い物リストにあった夕食の材料だけを買って事なきを得る。かろうじて飴ちゃん1個ずつをあてがわれたヒヨコたちがベソをかきながら言う台詞がいい。
 
  せっかく いっぱい えらんだのに…
  ぜんぶ いるもの だったのに…
  そんなの かっても つまんない!

 
彼らの気持ちはよく分かる。コドモの目から見ればそのまま食べられない食材なんてつまんない商品に他ならない。もちろん私も幼い頃よく母の目を盗んでこっそりお菓子を買い物カゴに入れ、会計前に売り場に戻されてブーたれたものだ(笑)。
さて、お菓子の山の夢破れガックリと肩を落として家に帰り着いたヒヨコたちをよそに、買い物リストを制覇した母は余裕で夕飯の準備にとりかかる。いつもは楽しいお風呂でも何だかしょんぼりして元気の無い子供たち。でも、お風呂上がりにはとっても嬉しいサプライズが待っているのだ♪
ばんざーい だいすき おかあさん!!
 
何度読んでも楽しくて嬉しくて開く度にニコニコしてしまう大好きな絵本だ。スーパーの棚にズラッと陳列されたカラフルな商品を一つ一つ確かめるもよし、やんちゃで一見無表情だけど何気ないしぐさがとびきりキュートなひよこ達の動きを追うもよし、とにかくどの頁も見ていて飽きない。初めて読んだ時、食品売り場の品揃えや値段などが妙にリアルで感心してしまったのだが、ふと奥付を見ると「取材協力:クイーンズ伊勢丹とあり、なるほど私が心惹かれるのも納得である(笑)。ヒヨコたちの行動もとにかく可愛くて、よく見るとちゃんとそれぞれのお菓子をを兄弟人数分カートに入れているのがいじらしい。にわとりのおとうさんとおかあさんの姿からも、子供たち一人一人を慈しむ大らかな愛情がじんわりと伝わってきて、しみじみと家族っていいな〜と思える幸せな絵本である。
作者の工藤ノリコさんの絵本をこのブログでとりあげるのは2回目だが、本当にこの方は幼児特有の屈託のない自己中ぶりとそれを上回る可愛い気をよく捉えて描くなあとしみじみ感心してしまう。こういう「コドモのいる暮らし」の生活感がある細部書き込み系の絵本といえば島田ゆかさんのバムとケロシリーズも人気があるが、あちらのファンの方にもぜひ工藤さんの絵本を読んでみて欲しいと思う。
 
 
さらに、スーパーマーケットと言えば外せない絵本がこちらの2冊。どちらも古いが私のお気に入りだ。ひたすら明るく清潔でまるで巨大コンビニのような日本のスーパーとはまた違って、何となく風情のある英国のスーパーマーケットの雰囲気が素敵で、読む度に絵の隅々までチェックしてしまう。
 
「まいごになったおにんぎょう」A.アーディゾーニ/E.アーディゾーニ
子どもの頃、「スーパーに住めたらいいのに」と本気で思っていた。食べ物だって日用品だって何でも食べ放題・使い放題だし(そりゃ窃盗だっちゅーの)これぞパラダイス!と妄想したものだ(笑)。手芸やおままごとやドールハウスが好きなガーリーな貴方に是非オススメしたい一冊。
 
「パディントンのかいもの」M.ボンド  
輸入食材を扱うスーパーでカートを押しつつブラブラしていると、いつもこの絵本のパディントンを思い出す。で、思わずマーマレードを追加したりして(笑)。大型カート2台に山盛りをお買い上げだなんて、一生に一度ぐらいやってみたい。残念ながら絶版らしいので図書館などで探して読んでみて欲しい。