ほんとうに人間はいいものかしら

手ぶくろを買いに
新美 南吉
偕成社 1988-03


by G-Tools

美しい日本語には語る喜びがある。
冒頭、初めての雪に驚き、無邪気に戯れる狐の子の描写は
それだけで心が洗われるような気がする。
「お手々がちんちんする」なんて表現がサラっと出てくる

幼い狐の子の瑞々しい感性にハッとさせられ、また
この子狐を優しく見守る母狐の語りかけがどこまでも
愛情に満ちていて、語っている自分まで日本一の慈母
にでもなったような気がしてくるのだ。
(ところが、いざ一緒に手袋を買いに行こうという時
過去の恐ろしい思い出に足がすくんでしまった母狐は
その危険な場所に幼い子ども一人を送り込むという
暴挙に出るのだ。慈母なんだか鬼母なんだか(^^;))
後半、子守歌を歌う人間の母親の「声」が出てくるが
その親子の会話がまた泣かせる。
かつて日本の親子は家庭でもこんな美しい日本語で
何気ない会話をしていたのだろうか。

ちなみに新美南吉氏の名作「手袋を買ひに」は多くの
出版社から出ているが、この偕成社のものは仮名遣い
を改めるなど、作品を読みやすくするためにあえて
原文に手を入れてある。このおかげで旧仮名遣いや
改行のない長文に悩まされることなく、気持ちよく
声に出して読み進むことができる。
黒井健氏の触りたくなるようなフワッとした柔らかい
タッチの挿絵も素晴らしく、心温まる一冊である。
唯一この絵本の困るところは、幼い子どもに読み聞かせ
た後、「にんげんは、ほんとうはわるものなの?」
などど聞かれて答えに窮してしまうところだ(^^;)