市原悦子&常田富士夫ごっこの愉しみ

ももたろう
まつい ただし
福音館書店 1965-02


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松居直氏の再話による「ももたろう」は、
無理なく語り部になりきれるリズム感のある
文体で、語るほどに楽しく、癒される。
何よりも嬉しくなるのは、作中そこここに

ちりばめられた擬音・擬態語の絶妙なセンスだ。
例えば、桃太郎の桃が流れてくる時の音といえば、
真っ先に思い浮かべるのは(私の場合)
「どんぶらこ、どんぶらこ・・」なのだが、
この本では「つんぶく かんぶく」と流れてくる。
川のせせらぎに乗って水面を浮き沈みしながら
流れてくる桃の姿が目に浮かぶようなこの響きは
どんぶらこ節に比べるとややインパクトが弱い
ような気もするが、これが意外と声に出して
みるととても心地よいのである。
もちろん、おばあさんが持ち帰ったこの桃は、
味気なくバカーンと割れたりはしない。
「じゃくっと」われるのだ!
果肉の繊維やしたたり落ちる果汁を連想させる
みずみずしい語感は、そこから子どもが生まれる
という展開だけに少々リアルすぎて戸惑うほどだ。
赤羽末吉氏の挿絵がまたいい。これぞ「赤子」だ。

とかく効率優先の現代では会話も短縮語が
当たり前で、擬態語などは無駄なものとして
どんどんそぎ落とされている気がするのだが、
時にはこんな芳醇なことばの世界をあらためて
声に出して味わうのも悪くない。