一周年

早いもので我がオトナノトモも気がつけば開設から1年が経った。
不定休どころか気が向いたときしか開店しないうえ、口当たりの良さなど全く考慮せず独自の味を頑固に貫く、偏屈店主のラーメン屋のようなブログでも、1年もすればそれなりに馴染み客が出来るのだから世の中捨てたモノではない。今後もなんとかこの調子で細く長く、儲け度外視の趣味の店路線を突き進もうと思っているので、どうか読者の皆さんも気長におつきあい願いたい。
 
ところで1周年を記念してアンケート企画なんぞやってみよう。
今後のオトナノトモで、えほんうるふ流の強引な解釈を読んでみたいという絵本がありましたら、ぜひご一報を。
必ず記事にするというお約束はできませんし、ご存じの通り更新ペースが気まぐれなブログゆえ下手すると数年先になるかもしれませんが(^^;)、挙げていただいた作品は必ず一読し、機会があればこちらでレビューを書かせていただきます。
「ちょいとアンタ、これなんかどうよ?」
…てな感じでお気軽にひとつよろしく♪
 
※ちなみに今までレビューを掲載した絵本のタイトル50音順リストはこちら

「豊かさ」は手に入れたものの…

 

4834001598だるまちゃんとかみなりちゃん
加古 里子
福音館書店 1968-08

by G-Tools
ふと手帳の購買予定品リストを見て、だいぶ前から内容が更新されていないことに気がついた。そういえばここ数年間で、私の物欲はどんどん希薄になってきているような気がする。
もともと若い頃から物欲ギラギラタイプの人間ではなかったので、「ま、これも一種の老化現象かしらん」などと暢気に思っていたのだが、なんのことはない、これこそ今日日の日本の一般大衆の消費傾向の特徴であり、経済成長にブレーキをかけている要因であると偉い人たちが指摘する「消費欲求への切実さの欠如」そのものだ、ということに最近気がついた。日頃、マスコミに誘導されるような消費活動に迎合しない価値観を自負していただけに、「なーんだ、私もしっかりマーケティングされてる井の中の蛙ってわけか…」と、一人で苦笑している。
 

ところで、かつて日本には消費活動への切実かつ健全な欲求が人々の心に溢れていた時代があった。当時の人々がいかに経済とテクノロジーの発展に明るく豊かな未来を夢見ていたかを感じさせる一冊の面白い絵本がある。
高度成長期まっただ中の1968年に初版が出た「だるまちゃんとかみなりちゃん」では、主人公のだるまちゃんが空から落ちてきたかみなりちゃんに誘われて雲の上のかみなりちゃんワールドを訪れる。電力システムが高度に発達したかみなりちゃんワールドでは、町中いたるところに立つアンテナから電波が飛び交い、家庭内においても人々は夢のように便利で豊かな生活を享受している。特に象徴的なのは最後の方に出てくるかみなりちゃん宅での夕食のシーンの描写で、なんとほんの数時間前のだるまちゃんとかみなりちゃんの様子を遠隔操作で録画したと思われるホームビデオを、薄型テレビ(もちろんカラー)で鑑賞しつつ家族揃って豪勢な食事をしているのである。
 

約40年後の現在、このシーンで使われている家電の在り方はごく一般的な日本の家庭の現状とほぼ一致しており、東大工学部卒の科学者であった作者ならではの未来予測図の正確さに舌を巻く。(ただし、この国の住宅事情の貧困さは経済の急成長をもってしてもいかんともしがたい為、キッチンからダイニングまでベルトコンベアで料理を運ぶ酔狂が実現している一般家庭はまずないとは思うが(^^;))。また、やたらと品数が多くゴージャスな料理が並ぶ食卓の様子は、かみなりちゃんの家が特別に金持ちというよりも、この食卓が象徴する未来の豊かな生活への憧れが現れているように思える。テーブル一杯に並ぶごちそうが家族の幸せの象徴だった時代であったとも言えよう。
 

確かに、便利で豊かな時代と環境に暮らす現代の日本人は、中流であれ下流であれ、世界規模の経済ヒエラルキーで言えばとても恵まれていて、望んだとおりの幸せな未来を手に入れたはずである。その意味では、加古里子氏が描いたハッピーなSFファンタジーは今後も次々と実現されていくのだろう。しかし、もはや人としての基本的欲求は満たされた今、さらに生活が便利で豊かで文化的になればなるほど、未来に対しての明るい希望や夢を持って生きる活力が失われていくというP.K.ディック的なSFアイロニーもまた、じわじわと確実に現実になりつつあるという気がしてならない。「豊かさ」と引き換えに私たちが失いつつあるもの、その喪失がもたらすものの大きさを、決して侮ってはならないと思う。
 
 
【えほんうるふオススメの関連記事】
・たまにはマクロ経済などかじってみようという殊勝なアナタに:未来経済研究室ー「豊かさ」の代償

はてなダイアラーと絵本

 
このオトナノトモ@はてなをオープンして1週間になる。
先週はたまたま息子の病気で家にいたこともあって、空いた時間をフルに使ってはてなのヘルプ及びそこからつながる膨大な量の参考記事を読みあさり、ようやくはてなの各種サービスの概要をつかんできたように思う(…多分(^^;)。なにはともあれ使ってみるのが一番だろうと、アンテナとブックマークとRSSを一気に使い始めたのだが、使い分けがややこしくてとても活用するまでには至っていない。勢いではてなグループにまで手を出したが、根本的にその機能を誤解していたということが参加承認を受けた直後に判明した(恥)→私の目を覚ましてくれたありがたいエントリー: 断片部 - パラフレイズ - はてなグループに参加したけど使わない人は何なんだろう 
 
情報リテラシーの高い人々にとっては便利な機能の数々も私にとっては豚に真珠猫に小判といったところだ。ちなみに絵文録ことのはマトリックスにまとめられたはてなサービス使い分け図は初心者の私にも分かりやすく、とても参考になった。
 
 
そんなこんなで試行錯誤を繰り返すうちに、全く未知の世界だったはてなユーザーのイメージがなんとなくまとまってきた。
以下、私がここ1週間の浅い経験から独断と偏見でアタリをつけたはてなパワーユーザーのイメージ

  • ITメディア利用歴が長く、コンピュータやwebに関する知識が豊富。
  • 得意分野に関する自説について、やや屈折したプライドを持っている
  • 文章表現にリテラシーレベルによる暗黙の足きりがある(分かる奴だけ分かりゃーいい、的な)
  • どちらかといえばマイナー指向で、内輪ネタ好き。
  • 子持ち所帯持ち率が低い。当然、主婦ネタに代表される所帯じみた話題はスルーしがち。
  • ネット上の仲間意識は持っているが、本人の家族・夫婦・親子・恋愛等の、現実に即したドメスティックな関係については言及を避ける。(特に男性→単にシャイなのか、それとも…?)

  
…などなど。何度も言うようだがあくまでも私の短く浅いはてな歴からの見解であり、激しく的外れだったらご勘弁を。ただ私は、なかば予想していたこれらの傾向を改めて感じつつ「やはりはてなの特異性は面白い!」と思うのである。

さて、上記のうち特に最後の二つあたりが関係していると思われるのだが、はてなには熱心な読書家があふれ熱のこもった書評も多く見受けられるというのに、絵本関連エントリーはなんとも影が薄い。絵本レビューがメインコンテンツ、というかそれしかないブログの管理人としては、なんとも淋しい話である。はてなサーチで検索してみても、めぼしい記事を見れば既に本家オトナノトモを介して存じ上げている方だったりして、絵本ブログ界の偏狭さを思い知らされたのであった。


そんな状況にあって唯一「おお、なんか面白そう♪」と私を小躍りさせたのが、はてなダイアラー絵本百選。ずらりと並んだ書影のラインナップを見るだけで、私はフムフムうんうんと一人でニヤついてしまったのだが、これに対して真っ先に「くだらねえ」というコメントがつき、それに対して誰も突っ込まないあたりにまた、はてなならではのクールなコミュニケーション様式を感じた次第である(笑)。

ともかく早速私もこの百選企画のふってくれリストに名乗りを上げようと、勢い前傾姿勢で鼻息も荒くキーボードに向かったわけだが、素晴らしくビギナーに不親切な参加システムの前にあえなく玉砕。またしても試行錯誤のあげく、管理人のid:necoprotocolさんに泣きついて、ようやく参加には一定の条件があることを知り膝を打ったのであった。
幸いその条件(はてなダイアリー更新30日以上)は私がたまたま他のブログからの移行組ということで元ブログでの蓄積データがあったおかげでほどなくクリアでき、この度晴れてふってくれリストに名を連ねることができた(はず)。
といっても必ずしもバトンが回ってくるわけではないらしいが、こんな私を百選選考員に入れてやってもいいという奇特な方が現れることを気長に待つとしよう。

わたしにとってのわたし

kuma00.jpgぼくはくまのままでいたかったのに……
イエルク・シュタイナー イエルク・ミュラー おおしま かおり
ほるぷ出版 1978-10

by G-Tools

巨匠コンビによる「わたし」レビュー: あなたにとってのわたしに引き続き、自分のアイデンティティとはなんぞや?というあたりを改めて考えさせられる絵本をとりあげてみる。
自分の気持ちが不安定なときには読みたくないと思っていたこの絵本について、そろそろちゃんとレビューを書こうと思うきっかけになった哲学者enzianさんの記事はこちら。
 
森の奥に住む一匹の熊が、冬眠しようと洞穴にもぐりこむ。やがて春が来て、目覚めた熊が外に出ると、世界は一変していた。熊が慣れ親しんだ森は消え失せ、かわりに大きな工場が建っていて、何よりも奇妙なことに、人間たちは一様に彼が熊であることを否定するのだった。混乱しながらも熊は熊として正当な主張を繰り返すのだが、誰一人それを認めてくれる人はいない。やがて熊は少しずつ、熊であることを諦め、自分を見失っていく…
 
感受性の鋭い人や精神的に不安定な状況にある人にとってはトラウマになるかも知れないこの絵本。使用上の注意として、努めて主人公に感情移入をしないように読むことと記しておきたい。
初めて読んだ時、私はうっかり熊の気持ちを案じながら読み進んでしまい、途中から少しずつ自分の気が狂っていくような感覚に捉えられ、背筋に冷たいものを感じてしまった。
 
ある朝、目が覚めたら自分が自分として認識されなくなっていたら? 同じように不条理の極みとはいえ、カフカの「変身」ならば主人公自身が自分の変化を認識でき、なおかつそれが元の自分の変身後の姿であることを周囲にも認識されているだけまだマシなのではないだろうか。このクマのように、自分では今までの自分となんら変わらないと思っているのに、自分以外のあらゆる存在にそれをアタマから否定されてしまったら、あなたはそれでも自分を信じ続けることができるだろうか。
 
最初はたちの悪い冗談だと思うかも知れない。これはひょっとして、スターどっきり丸秘報告(古い)並みに手の込んだビックリなのか??と。でも、自分以外の全世界に今まで信じていた自己認識の全てを否定され続けたら、しまいには狂っているのは自分の方かもという考えが出てきても不思議ではない。
自分が狂っているかも知れないという不安。幸い私はこれまでの人生でその疑惑に苛まれたことはないが、きっとそれは計り知れない恐怖なのだろうと思う。その恐怖故に本当に発狂しかねないぐらいの…。自分を信じる限りこの恐怖と戦い続けなければならないのだとしたら、いっそ相手の認識を受け入れて楽になってしまいたいと思うようになるのは時間の問題だろう。
 
洗脳によるアイデンティティ喪失の過程とはこういうものなのではないだろうか。そして、一度失ってしまったアイデンティティを自力で取り戻すのは相当困難なことに思える。現にこの絵本の熊も、最後にはかすかに残った本能に突き動かされて自分の原点へと帰り着くのだが、彼の思考はそこで停止してしまう。なんとも救いのないストーリーなのだ。
 
普段全く意識していないことだが、人が自分を自分だと認識する拠り所なんて実は案外もろいもので、結局は他者との関わりの中で自分の居場所を確認しているに過ぎないのかも知れない。だとしたら、現実社会での個人間の関わりがどんどん希薄になり、代わりに第三者の意志によって容易に操作されかねないネット上の仮想社会に居場所を求めるような今の風潮の危うさに、そしてまさに自分がその波にしっかり乗ってしまっているという事実に、背筋がうすら寒くなるのは私だけではないだろう。

オトナノトモ@はてな開設

  • ごあいさつ

はてなユーザーの皆様初めまして。lady-wolfこと、えほんうるふと申します。
1年ほど前からseesaaブログにて絵本"オトナ読み"レビューブログ、オトナノトモを運営しております。
この度、こちらにオトナノトモ@はてなを開設いたしました。どうぞお見知りおきを。


本家オトナノトモからこちらを訪れてくださった読者のみなさん、わざわざお越し頂きありがとうございます。えほんうるふとしては絵本レビューとは趣旨の異なる第2ブログを作りたかったのですが、やむをえずミラーサイトの開設を優先させることになりました。サーバー障害等で本家サイトが見られないときにご利用下さい。また、今後のコメント・トラックバックはお好きな方へどうぞ。
なお、基本的に掲載記事は親サイトと同じですが、プロフィールなど一部の記事ははてな用に修正する予定です。

かねてよりバックアップ用にミラーサイトを開設しようと思っていました。しかし、ただでさえ記事の更新が遅い私は結局この計画は手つかずのまま、過去ログのバックアップすら取らずのほほんと過ごしていました。ところがここへきて連日のseesaaのサーバー障害&長時間の緊急メンテナンスの憂き目にあい、さすがに自分のサイト管理の甘さを痛感いたしました(^^;)。
そこでようやく重い腰をあげてバックアップ作業にとりかかったわけですが・・・seesaaは激重サーバーとして有名ですが私はこれまで特に難を感じたことがなく、慣れて気に入ってるのでとりあえず引っ越しは考えず、当初の予定通りミラーサイトもどき(?)を作ることにしました。幸いseesaaはデータのエクスポート機能はばっちりなので、インポート可能のサーバーならば初心者の私でもさほど労せず目的は叶うはず。ならば折角なので勉強を兼ねて今まであまり縁のなかった環境に作ってみようと考え、はてなに白羽が立ったというわけです。


はてなは以前から気になってました。が、いわゆるブログ形式の環境に慣れてしまった私には機能の豊富さがかえってややこしく思え、とっつきにくい印象がありました。でもそのとっつきにくさはきっと、実は中にいる者の居心地の良さの裏返しではないか、そしてそれはおそらく「上質なヘンな人」コミュニティを目指すオトナノトモの指向には合って居るんではないかと夢想して、「いつかははてなと勝手に憧れておりました。
今回いよいよ私のはてな参入が具体化したところで、改めて現ユーザーの思惑を知りたいと検索をかけてみると、はてなに関する私の推測があながち大ハズレではないと思わせるいくつかの記事*1,*2を発見しました。これらの記事を読んでどどーんと背中を押された気になった私は早速データをインポートし、今この日記を書いています。

  • おわびとお願い

現在こちらの内容は本家オトナノトモのデータを単純にインポートしただけなので、あちこち不具合もありたいへん見苦しい内容になっております。これから少しずつはてな記法など勉強して順次修正していく予定ですが、全ての過去ログに手を入れるのはかなり時間がかかると思われます。また、過去ログについていたコメントやTBははてなのインポート仕様によりこちらには反映されていません。過去ログは(サーバーが落ちていない限り)seesaa本家オトナノトモの方がマトモな状態で記事をごらんいただけますので、よろしかったらご参照下さい。


また、はてなに関しては全くのド素人の私なので「ここはこうしたほうがよいぞ」「こんなことができるぞ」といったアドバイスはどんな基本的なものでも大歓迎です。
どうぞよろしくお願いします。m(_ _)m

*1:したらば元社長日記より「はてなが消費されないことを望む」

*2:大須は燃えているか?より「はてなの世界」

チョコレートバトン

B00067HDXEチャーリーとチョコレート工場 特別版
ジョニー・デップ ロアルド・ダール ティム・バートン
ワーナー・ホーム・ビデオ 2006-02-03

by G-Tools
久々にバトンをゲット。今が旬のチョコバトンfromまりんさん
季節モノ(?)なのでさっそく回答。

続きを読む

あなたにとってのわたし

watashi.jpgわたし
谷川 俊太郎 長 新太
福音館書店 1976-10

by G-Tools
「あなたにとって、私ってなんなの?!」

いきなりだが、男女関係の修羅場用語として割とベタな一例を挙げてみた。
さて、これに対する正しい回答は以下のうち、どれか?

 1.「決まってるじゃないか、一番大切な人さ。」
 2.「じゃあ君にとって僕はなんなんだ!」
 3.「そういえば、考えたこともなかったな…。」
 4.「フッ・・・ただの遊びだよ。」
 

続きを読む